語り継がれるもの
昔の女性は今以上に着物を大事にし日常着として自然に日本の服飾文化に親しんでまいりました。
着物は職人さんの手により沢山の工程を経てこの世に送り出され、袖を通す方々はそれらを大切に扱い暮らしと共に寄り添ってきたのです。
『百枚の着物があれば、百通りの物語がある』と云われています。
わたくしも母から譲り受けた着物があります。
たとう紙から紙紐を解き「この着物はね・・・」とその着物を着た時のエピソードを語り、次のたとう紙を開けて「これはね・・・」
聞き役にばかり回る母親が久しぶりに自分の若かりし時代を思い起こしそこには子供の頃のわたくしも登場し懐かしんだひと時でした。
ものを大事にした時代だからこそより思いが深く記憶に刻み込まれていたのかもしれません。
その当時は知らなかった懐かしい思い出は自分の年代と重なり心温まる気持ちにさせられたものです。今度はわたくしがその想いを娘にも継がせたいと大事にお手入れしながら着ております。
着物を受け継ぐという事は着物にまつわる沢山のストーリが存在しそれらの想いを含めて受け継がれて行くものなのですね。
母から娘へ思いを繋げる事でお子様は心豊かに成長なさることと思います。
長き伝統を引き継いだ染織の職人さんが気の遠くなるような時間を掛けて作り上げた着物を何代にも亘って大事にして頂けたら着物や帯もどんなにか喜ぶことでしょう。